わたしの処方箋
先日からなぜか肩と首が痛くて、調子の出ない1日でした。
浮かない顔をしていたのがバレたのか、目の前の席の後輩が、
忙しい仕事の合間に、声をかけてくれました。
「銀座に、1冊しか本を置かない本屋があるんですって。
1週間に1冊。週替わりで本が変わって、
そのスタイルで、もう10年もやってるそうですよ」
テレビは見ないし、ケイタイも未だガラケーの私のために、
本の話をふってくれたことが分かっていながら、
私の返事は
「その本屋、奇をてらってるね。てらいすぎ」
という、そっけないものでした。
目の前の、困ったような顔。
あぁ、また、やってしまった…
また、とは言っても、記憶は云十年前にさかのぼり、祖母のこと。
当時、私は十歳の夏休みを、病院の1室で過ごしていました。
腹膜炎で入院し、子どもにしては大きな手術をして、
仕事のある両親の代わりに、祖母が病室で毎日、付き添ってくれました。
夜も、簡易の長椅子で寝てくれて。
学校はちょうど夏休みで、クラスの友だちは私の入院をまだ知らないので
友だちがお見舞いに来てくれないことは残念でしたが、
それでも大好きなおばあちゃんと一緒に毎日過ごせて、私はゴキゲンでした。
楽しみだったのが、夜、寝る前に祖母が本を読んでくれる時間。
とくにお気に入りは、『シートン動物記』の王者ロボと、『アラビアンナイト』の盗賊アリババ。
「また、これかいな?」
と祖母が呆れるほど、何度もせがんで読んでもらったものです。
そんなある夜、お盆に入ったころだったと思いますが、
祖母と話していて、秋の運動会の話になりました。
退院のめどはたっていなかったので、祖母も正直に言ってくれたのでしょう、
「運動会いうたら9月やろ。まだ無理ちゃうやろか」
そう言われ、楽しい入院生活も急に色あせるほど悲しくなって、大泣きしてしまったのです。
運動会なんて、たいして好きでもなかったくせに。
あまりの大泣きに、祖母もおろおろして、
「ゆきちゃん、本、読んだろか。オオカミの、王者ロボ」
ぶんぶん(首ふる)
「ほんなら、アリババは?」
いやいや(首ふる)
祖母が、どんな顔をしていたのかは知りません。
そのままくるりと、ベッドの上で背中を向けてしまいましたから。
ちなみに、私はお医者さんも驚くほどの回復ぶりで、
8月下旬にはきちんと退院し、9月1日の始業式にはしっかり学校にいました。
「夏休みのほとんど、入院しててん」 と言っても、だれも信じてくれず、これまた残念でした。
あのときのことを謝らないまま、祖母は亡くなってしまいました。
でも今、これを書いていて気づきました。
あのときも、本だったんですね。
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