夢の種ふたつ、『ゆずり葉のころ』と「読書の森」
『ゆずり葉のころ』という映画、もう7回も見たんです。
軽井沢を舞台にしているんですが、八千草薫さんと仲代達矢さんがしみじみと素晴らしくって。
どうしても、もう一度行きたくなってしまいました。
『ゆずり葉のころ』の舞台を訪ねる軽井沢の旅を企画してもらえませんか。
――そんなお声をもとにした、軽井沢への3日間でした。
いつも、強い思いをもって、旅行に臨まれる方です。
経験上、わかっています。
そうした方の願いは、ぜったいに叶えないといけない。
だって、わたしも、そうなのですから。
2~3年前、添乗でベトナムのホーチミンに行ったときのこと。
仕事を離れて、どうしても行きたかったのが、
開高健さんの常宿、マジェスティックサイゴンの最上階にあるバーでした。
夕食後、旧式の真っ黒なエレベーターに乗り込み、そっとひとりで行きました。
サイゴン川を見下ろす席に腰かけ、カクテルを一杯、いただきました。
川より速いバイクの流れを見ながら、ベトナムに来なければならなかった作家のあれこれを思いました。
たったそれだけのことなのに――、指の先まで満たされました。
そういうものなのです。
さて、明日は軽井沢へ出発という日。
その方が突然、事務所に来てくださいました。
はい、これ、映画のパンフレット。
事前にご覧いただいておいたほうがいいと思って。
必ず行きたいのが、真楽寺の龍神池と、軽井沢の「珈琲歌劇」という名前の喫茶店。
どちらも、たいせつな場面なんです。
ちょっと、怖いほどの気迫。
でも、そのほうが嬉しい。
心のなかで、くりかえし思い描いた風景に出会いにいく。
そういう「旅」、私も好きです。
なので、すこし冒険してみたくなりました。
お昼のお店に、私のたいせつな場所を選んでみたのです。
小諸の町から車で15分。
御牧々原(みまきがはら)にある茶房、読書の森。
ふだんなら、ツアーで訪ねたりは、まずしない場所です。
道も分かりにくいし、ルートも遠回りになるし、小さなお店だし、
なにより――まだ学生だった時分の思い出の場所。
胸のうちにそっとしまっておきたいじゃありませんか。
でも…、行って良かった!
20年ぶりの再訪でしたが、ちっとも変わっていませんでした。
お店も、依田さんご夫妻も。
奥さんの滋味あふれる手料理も、ご主人の淹れる美味しいコーヒーも。
変わったことといえば、お店の裏の林が、すっかりご主人のアート(どうらく?)スペースになっていたこと。
(こちらは、その名も「どうらくオルガン」。
新潟の豪雪地帯、十日町の芸術祭で制作・発表された作品が、こちらに移築されたものです)
「お店は変わってないでしょ。変わんないんだよ。
私たちふたりとも、ケイタイもってないし。
でも、あらきさんも変わんないよね。
20年ぶりってことは、今いくつ? けっこんはしたの?」
先週まで会っていたかのように屈託なく話しかけてくださる奥さんに
私もすっかり学生時代に返り、ひとしきりおしゃべりしたあとでした。
何かを感じとられたのか、寡黙なご主人が、私にこう、言葉をかけてくれました。
こないだ、ひとり旅でロシアに行ってきたんです。
トルストイのお墓詣りだったんですけどね。
手配してくれた旅行会社の方には、ずいぶん我がまま言ってお世話になりました。
だれかの夢を形にする。
いいお仕事だと思いますよ。
そう、なのです。
夢という名の種が入っていれば、それは「旅」になる。
そして、夢の種は、たくさん入っているほうがいい。
ひとりのお客様の、『ゆずり葉のころ』への思いから生まれた3日間。
そこに、こっそり潜りこませた、わたしの夢。
おつきあいいただいた皆さん、ありがとうございました。
★★銀ステ募金箱 -熊本城修復支援事業に寄付します-★★
6月25日(土)
*********************************
バス旅行、オーダメイド旅行のご相談は…
銀のステッキ旅行
TEL 0797-91-2260(平日8:30~17:00)
■銀のステッキは会員制の「旅サロン」を主催しています。
■公式ホームページ:http://www.gin-st.com
**********************************