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2025/9/23

大和国宝三寺巡礼〈中宮寺、安倍文殊、聖林寺〉

今年は万博イヤーということで、各地で「国宝展」が開催されていました

奈良の「超国宝」展も盛況だったらしいのですが、結局行けずじまい

大阪、京都、奈良 3ヶ所の国宝展に行った先輩曰く、「奈良は一味ちがった」とのこと

どういうことかというと、京都、大阪の国宝展は、全国各地から国宝を集めていましたが、

奈良は、自前(奈良県内)の国宝を展示していたということ

それなら、と奈良の国宝、、というと幅広いので、国宝”仏”を見に行く見仏ツアーを企画しました

 

まずは、あの有名な、あの観音さま

(和辻哲郎「古寺巡礼より」)

数々の著名人が中宮寺を訪れては、最大級の賛辞を送っています


あの肌の黒いつやは実に不思議である
この像が木でありながら銅と同じような強い感じを持っているのはあのつやのせいだと思われる
(中略)
あのうっとりと閉じた眼に、しみじみと優しい愛の涙が実際に光っているように見え、
あのかすかにほほえんだ唇のあたりに、この瞬間にひらめいて出た愛の表情が実際に動いて感ぜられるのは、確かにあのつやのおかげであろう
(中略)
わたくしたちはただうっとりとしてながめた
心の奥でしめやかに静かにとめどもなく涙が流れるというような気持ちであった
ここには、慈愛と悲哀との杯がなみなみと満たされている
まことに至純な美しさで、また美しいとのみでは言い尽くせない神聖な美しさである

(和辻哲郎「古寺巡礼」より)


続いては、私が好きなあの仏師の、あの文殊菩薩

比較的最近(2015年)に国宝指定を受けた、5体

桜井市の「安倍文殊院」の渡海文殊群像です
近所に住んでいたので、”智恵の文殊さん”ということで
小さい頃から正月には必ずこちらにお参りに来ていました

馴染みの寺に、なんとあの鎌倉時代の仏師「快慶」の仏様がおられたとは!

(安倍文殊院HPより)

巨大な獅子にまたがった文殊様
像高7mもあり、圧倒的な存在感に加え、快慶ならではの繊細で緻密な表現
ワンちゃんのような垂れ耳と情けない表情の獅子もユニーク

しみじみと眺めて、今さらですが智恵をさずけていただけるようお祈りしました

 

最後は、私が一番好きな、あのお寺の、あの十一面観音

(和辻哲郎「古寺巡礼」より)

こちらも数々の著名人を虜にした、聖林寺の十一面観音様

美術家のフェノロサ、まさにこの方のおかげで秘仏の封印が解かれました

「この界隈にどれ程の素封家(資産家)がいるか知らないが、この仏さま一体にとうてい及ぶものでない」と語ったとか

前出の和辻哲郎は、

「きれの長い、半ば閉じた眼、厚ぼったい瞼、ふくよかな唇、鋭くない鼻、―すべてわれわれが見慣れた形相の理想化であって、異国人らしいあともなければ、また超人を現わす特殊な相好があるわけでもない。しかもそこには神々しい威厳と、人間のものならぬ美しさとが現わされている」

随筆家の白洲正子は

「さしこんで来るほのかな光の中に、浮び出た観音の姿を私は忘れることが出来ない。それは今この世に生れ出たという感じに、ゆらめきながら現れたのであった。その後何回も見ているのに、あの感動は二度と味えない。世の中にこんな美しいものがあるのかと、私はただ茫然とみとれていた」

写真家の土門拳は、

「わたしは、聖林寺十一面観音を何時間もみつめているうち、フト、これは三輪山の神大物主の化身ではないか、と思えて仕方がなかった。それは菩薩の慈悲というよりは、神の威厳を感じさせた」

ということで、私に残された表現はひとつもないほど、言い尽くされているのです

今では新しい収蔵庫が完成し、ぐるりと観音さまのまわりをまわることができ
前から斜めから、横から後ろから、あらゆる角度から拝することができます

ご住職様が案内・説明してくださったのですが、皆さまからの質問が途切れることなく
また、誰もその場を去ろうとせず、いつまでも観音様との時間を共有していたい
そんな印象を受けました

「やっぱり、いい観音様やね、あなたが一番好きなのが分かるわ」と

この場にいる全員を虜にしたのでした

大和国宝巡礼、まだまだ美しく素晴らしい仏様がたくさんおられますので
静かに続けてみようかと思います

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